「録音した自分の声を聞いて、こんなに低かったかな、と思って」
研修の休憩時間に、そう話してくださる方がいます。
年齢とともに声が変わるのは自然なことで、直さなければいけない不具合ではありません。困るのは、変わったこと自体ではなく、昔の出し方のまま話し続けてしまうことです。
私は放送の世界に20年以上おりました。その私にも、同じ変化は起きています。
声が変わったと感じるのは、気のせいではありません
留守番電話に残った自分の声。動画に入った自分の声。ふだん耳に届いている声とは、別のものに聞こえます。
録音された声が自分の耳で聞く声と違うのは、年齢に関わらず起きることです。ただ、しばらくぶりに聞いた方が「前はこうじゃなかった」とおっしゃるとき、その感覚を気のせいとして片づける必要はありません。
家族に「疲れてる?」と聞かれた。朝いちばんの挨拶が、思ったより出なかった。研修の場でも、そういう小さな心当たりからご相談が始まります。
声は毎日使うものですから、変わったことに気づかないまま昔と同じ出し方を続けると、そのぶん力が要ります。長く話した日の疲れ方が前と違う、という方もいらっしゃいます。
まず、何が変わっているのかを分けて見るところから始めます。
年齢とともに、声はこんなふうに変わります
ここでお話しするのは、喉の構造ではなく、話していて自分で気づく変化です。
出しやすい音の高さが少しずつ移ります。以前と同じつもりで話すと、無理のある音域で出し続けることになります。
文の終わりまで息が続かず、語尾が消えやすくなります。放送の現場でも、語尾が細くなって最後まで届かないことは起きていました。
声の出はじめに息が混じります。長く話した日の後半に出やすく、一晩おくと戻っていることもあります。
朝いちばんや、しばらく黙っていたあとの一声目が出にくくなります。
多くは少しずつ移っていくので、自分では気づきにくいところがあります。急に変わったと感じるときは、この先で触れるとおり、医療機関にご相談ください。
ただ、この4つがすべて年齢のせいとは限りません。とくに立ち上がりの出にくさは、しばらく声を使っていないだけのこともあります。
放送の現場でも、しばらく本番から離れていると、声が出るまでに時間のかかる日がありました。
年齢とともに移った音の高さを、無理に元へ戻そうとはしません。しばらく声を使っていなかったための出にくさは、話す機会が戻ると軽くなることがあります。
では、日常のなかで何をしておくといいのでしょうか。
今の声を活かすための、3つの習慣
研修やレッスンでお伝えしているのは、次の3つです。特別な時間を取らずに続けられるものを選びました。
声を出す機会を、一日のどこかに作る。まとまった練習の時間は要りません。
語尾を、最後まで言い切る。息が続かなくなると、真っ先に消えるのが語尾です。
話し始める前に、息を吐き切る。吸い込んだまま話し出すと、喉に力が入ります。
声を出す機会を、一日のどこかに作る
朝の挨拶、電話、短い音読。どれでも構いません。
まとまった練習の時間を作ろうとすると、忙しい日には後回しになります。後回しが続くと、そのままやめてしまいます。すでに毎日していることに重ねるほうが続きます。
新聞のコラムを一段落だけ声に出して読む。それくらいの分量で十分です。
語尾を、最後まで言い切る
「〜と思います」の「ます」が聞こえない。「よろしくお願いします」が「よろしくお願い」で終わっている。本人は言ったつもりでも、相手には届いていないことがあります。
声が届かないと感じると、まず声量を上げようとしがちです。研修では、声量より先に、語尾が最後まで出ているかを見ています。
話し始める前に、息を吐き切る
会議やプレゼンの直前は、息を吸い込んだ状態で話し出してしまいがちです。
一度ゆっくり吐いて、自然に入ってくる息で話し始める。本番前に私が意識していたのも、呼吸と姿勢の2つだけでした。
3つとも、若い声に近づけるための練習ではありません。今の声を、届く形で使うための習慣です。姿勢と呼吸については、「声が小さいと言われる人へ。無理に大声を出さずに届く声を作るコツ」という記事に書きました。
無理に若い声を出そうとしない
若い声に戻すことは、研修の目標にしていません。
声の変化に気づくと、昔の高さに戻したくなります。研修でも、そのお気持ちはよく伺います。私自身は、声を元に戻すのではなく、今の自分の声を整えるという感覚でやってきました。
けれど、出しやすい高さから外れた声を出し続けると、喉に力が入ります。力の入った声は、本人が思うほど若くは聞こえません。聞いている側に先に伝わるのは、力んでいることのほうです。
戻そうとするより、今の声を使う。高さを上げるより、間を置く。若く聞かせるより、聞き取りやすく。
声の印象は、高さだけで決まりません。どこで区切り、どこで一拍置くかによって、受け取られ方は変わります。
同じ低さの声でも、電話で使う声と、会議で使う声は違います。ご自分はどちらの場面が多いでしょうか。レッスンでも、型にはめず、その方の声質と場面に合わせて考えます。
低い声には、高い声では出せない落ち着きがあります。それを消してまで高さを上げる必要はない、と研修ではお伝えしています。
間の置き方については「一本調子から抜け出す。伝わる話し方の『間』の作り方」という記事にも書いています。
ここまでは、今の声をそのまま使うための工夫です。ただ、工夫で扱ってはいけない変化もあります。
痛みや違和感が続くときは
話すと喉が痛い、声がかすれたまま戻らない、飲み込みにくい。そうした状態が続いているときは、発声の工夫で乗り切ろうとせず、耳鼻咽喉科など専門の医療機関にご相談ください。
早めに相談することも、声を長く使い続けるための準備だと思っています。
長く話した日の喉の休ませ方については、「長く話すと喉が疲れる方へ。声を守る話し方と、休ませ方」という記事にまとめました。
よくある質問
声の変化は、何歳くらいから始まりますか
低い声のままでも、印象は悪くなりませんか
毎日練習しないと戻ってしまいますか
明日の朝の挨拶を、いつもより少しゆっくり、語尾まで言い切ってみてください😊
