BLOG

2026.09.09 / 声と話し方

原稿があると棒読みになる方へ。式辞や挨拶を自分の言葉で届ける準備

式辞や挨拶の原稿が読み上げになってしまう方へ。棒読みの原因は読む力ではなく、区切る場所と目線を上げる場所が決まっていないことにあります。原稿を書き直さずに当日そのまま使える準備をご紹介します。

原稿があると棒読みになる方へ。式辞や挨拶を自分の言葉で届ける準備

「原稿は用意したんです。でも、読み上げになってしまって」

周年行事や表彰式でご挨拶を控えた方から、研修でよく伺うご相談です。

何度も書き直して、そのとおりに読んだのに「棒読みでしたね」と言われてしまう。これは、こたえます。

私も放送の世界に20年以上、原稿を読むのが仕事でした。それでも、読めているのに伝わっていない日はあったんですね。

今日の見方棒読みになるのは、読む力の問題ではないことが多いです。どこで区切り、どこで目線を上げるかが決まっていないからです。研修でお勧めしているのも、原稿を書き直すことではなく、原稿に印を入れることです。

読める原稿と、伝わる原稿は違います

書いた文章は、目で読むためにできています。

読点や改行が視線を導いてくれるので、黙って読むぶんには詰まりません。ところが声に出したとたん、その手がかりは聞いている方には渡らなくなります。

相手に届くのは、音の高さと、速さと、切れ目だけです。

式辞の原稿でよくあるのは、この行き違いではないでしょうか。目で追えば整っている一文でも、耳では意味の切れ目が来るまで、聞いている方を待たせてしまいます。

「本日はお忙しい中、また遠方よりご列席を賜り、誠にありがとうございます」

一文としては整っているのですが、息を継ぐ場所を決めずに読むと、どこが山なのか分からないまま終わってしまいます。

棒読みになるのは、区切る場所が決まっていないからです

原稿を前にすると、「うまく読もう」として速くなる方が多いです。

速くなると、区切りが消えます。区切りが消えると、聞いている側は意味の切れ目を自分で探すことになります。その負担が「棒読み」という印象として残るんですね。

私が放送の現場で最初に教わったのも、抑揚のつけ方ではなく、原稿に線を引くことでした。

やること 01

一文が2行を超えていたら、意味の切れ目に斜線を1本入れる。

やること 02

いちばん伝えたい語の直前に、もう1本入れる。線の前で息を継ぐ。

やること 03

線を入れすぎない。1つの段落に2本までにとどめる。

さきほどの一文なら、こうなります。

「本日はお忙しい中、/ また遠方よりご列席を賜り、/ 誠にありがとうございます」

線は「ここで止まる」という合図です。止まると、その次の言葉が自然に立ち上がってきます。それだけです。

強く読もうとしなくても、間があるだけで、そこが山だと伝わりやすくなります。間そのものの働きについては、一本調子から抜け出す。伝わる話し方の「間」の作り方という記事にも書きました。

うまく読もうとするより、区切る。強く言おうとするより、置く。速く進めようとするより、待つ。

本番前にしておく、3つの準備

線を引く場所が決まったら、あとはそれほど多くありません。当日の朝にできることばかりで、前の晩に原稿を書き直す必要はありません。

3つ本番前に決めておくこと。原稿そのものは、もう変えません。

最初の一文だけ、読まずに言えるようにする

冒頭は、いちばん緊張する場面で、いちばん見られている時間でもあります。

ここで下を向いたまま始めると、聞いている方には「下を向いた人の声」として届きます。その印象は、終わりまで抜けません。逆に、最初の一文さえ顔を上げて言えれば、あとは原稿に戻って構いません。

短い挨拶ほど、この一文で印象が決まります。冒頭の一文が固くなるときは、第一声で印象が変わる。挨拶と自己紹介を「短く伝える」声の準備で、第一声の準備を3つ挙げています。

読まずに言う一文を、もう1箇所決めておく

原稿の途中に、自分の言葉で言う場所を1つだけ作ります。

「これは、私が本当にそう思っていることなのですが」と前置きしてから続ける。この一言があるだけで、聞いている方の姿勢が変わることがあります。研修でも、ここで空気が動くのをよく見ています。

全部を自分の言葉にしようとしなくて大丈夫です。研修でお願いしているのも、この1箇所だけです。

声に出して、1回だけ通す

黙読では、息が続かない場所は見つかりません。

実際に声を出してみると、「ここで苦しくなる」という箇所が出てきます。そこに線を足せば、原稿の準備は終わりです。

うまくいかない準備
前の晩に原稿を書き直し、当日は黙読で確認して本番を迎える。
うまくいく準備
原稿は変えず、斜線を入れて1回声に出し、読まずに言う一文を決めておく。

紙を直すのではなく、読み方を決める。あとは、どこで顔を上げるかを決めておけば、当日の準備は終わりです。

目線を上げる場所を、先に決めておく

「顔を上げましょう」と言われても、読みながらでは難しいと思いませんか。

上げる場所を決めていないと、上げた瞬間に自分がどこを読んでいたのか分からなくなる。ですから、上げていい場所をあらかじめ選んでおきます。

最初の一文で顔を上げることは、もう決めました。あとは、次の3つです。

目線を上げる場所 01

いちばん伝えたい語の前に引いた、斜線のところ。

目線を上げる場所 02

相手の名前や団体名を口にするとき。

目線を上げる場所 03

最後の一文の、言い終わり。

さきほどの一文なら、「本日はお忙しい中、/」の斜線で一度上げ、「誠にありがとうございます」の言い終わりでもう一度上げます。

見る先は、いちばん後ろの席です。式典でも朝礼でも同じです。

前の列だけを見ていると、声もそこで止まりやすくなります。会場の奥へ目を向けると、声の向きもそちらへ変わります。原稿を読んでいた頃も、目線は近くではなく遠くへ置くようにしていました。

無理に声を張らずに奥まで届ける考え方は、声が小さいと言われる人へ。無理に大声を出さずに届く声を作るコツという記事にも書いています。

最初の一文とあわせて4箇所。決めておけば、それ以上は探さずに済みます。探さずに済むぶん、気持ちを声のほうへ向けられます。研修でも、目線を上げる場所を先に決めていただくところから入ります。

決めておくのは、ここまでです。あとは、決めたとおりに読み切ろうとしすぎないことだけ、気をつけます。

完璧に読み切ることを目標にしない

原稿どおりに読めた日より、少し詰まった日のほうが「よかった」と言われることがあります。

詰まったところで、聞いている方が顔を上げる。その瞬間から、話が聞かれ始めるんですね。不思議なものです。

もちろん、言い間違いは減らしたいものです。ただ、間違えないことを一番に置くと、視線が原稿から離れなくなります。

研修では、式辞を控えた方に「1回言い直しても大丈夫ですよ」とお伝えしています。言い直しは失敗ではなく、聞いている方に向き直る合図になります😊

読み切ることではなく、伝わったところが1つ残ること。準備の目標は、そちらに置いてみてください。

よくある質問

原稿は覚えたほうがよいのでしょうか
覚える必要はありません。最初の一文と、途中の一文だけ読まずに言えれば十分です。
声が震えてしまいます
研修では、まず息を吐き切っていただくところから始めます。震えや喉の違和感が続くときは、耳鼻咽喉科でみていただくのが安心です。
時間が決まっている挨拶では、どこを削ればよいですか
説明を削り、相手の名前と感謝の言葉は残します。聞いている方の記憶に残るのはそちらです。

次に原稿を渡されたら、書き直す前に、線を1本引いてみてください。

塚本くみ子

記事一覧へ戻る

CONTACT

想いと課題を、まずはお聞かせください。

内容がまとまっていない段階でも、必要な形を一緒に整理します。

お問い合わせ →